長い人生で「身元保証人」を必要とする局面は多くはありませんが、そのどれもが非常に重要な自体に直面しているときです。その人がきちんとした人であることを証明するために必要な「身元保証人を立てる」という手続きは、実は終活においても避けて通れないものです。では、身元保証人とは具体的にどんな役割を負う人なのでしょうか。また、もし身近に身元保証人になってもらえそうな人がいなかったら、どうしたらよいのでしょうか。
今回は、身元保証人とはどんな存在なのかという点から、ビジネスとしての身元保証サービスというものまで、順番に見ていきましょう。
身元保証人とは
身元保証人とは、本人が信頼できる人であることを保証し、本人に何かあったときには代わりに責任を負う立場の人です。長い人生においては身元保証人を必要とするシーンは多く、たとえば賃貸アパートを借りる際や就職活動のときなどが挙げられます。
終活においても身元保証人が必要とされることは多々あり、これは詳細を後述します。
身元保証人になれる人とは
身元保証人として役割を果たせる人かどうかという判断基準は、細かい部分は病院や施設によって異なりますが、必須条件としてまず「資力がある人」というものは挙げられます。
それを証明するために、年齢が18歳以上で仕事に就いており、安定した収入・一定以上の年収を得ていることなどを確認できる書類を提出する必要があります。
また、本人との血縁関係の有無については決まりがないため、家族や親族以外の第三者であっても身元保証人になることはできます。そのため、後述する「身元保証サービス」を提供する企業が成立するわけです。
反対に、身元保証人に「なれない人」もいます。前述したように、ある程度の資力が求められるため、主にその条件を満たさない人は身元保証人にはなれません。
〈身元保証人〉になれない人とは
〇仕事に就いていない人
〇専業主婦・主夫
〇年金受給者
〇高齢の配偶者や兄弟姉妹
〇遠方に住む親戚
〇(成年)後見人
身元引受人との違い
基本的には、身元保証人と身元引受人は同義と考えてよいのですが、病院や施設によって呼び方が違うだけという場合もあれば、保証人と引受人を分けて用意するよう要請されることもあります。
厳密に違いを挙げるとするなら、身元保証人は「金銭の債務の連帯責任を負う」、身元引受人は「退院・退所時に費用の精算と手続きを行い、身柄と荷物を引き受ける・亡くなった際に遺体を引き受ける」という意味合いが強いといえます。
したがって、身元保証人(または身元引受人)をひとり用意すればよい場合もあれば、分けてそれぞれひとりずつ用意する場合もあり、病院や施設によってまちまちということになります。
連帯保証人との違い
連帯保証人は法律上で明確に定義されているものであり、「身元保証人」や「保証人」よりはるかに責任の重い立場です。
具体的には、たとえば高齢者本人が債務の清算や弁済(病院の治療費や介護施設利用費の支払いなど)ができない際には、本人に代わって支払い義務が生じるものです。債務に関しては、本人と同等の責任が課されるということです。
後見人(=成年後見人)との違い
後見人は、高齢者本人が認知症などで判断能力が低下した際に、本人に代わって契約などの法的行為や財産管理を行う立場です。入院・入所の手続きを代行するなどの点で身元保証人と役割が重なりますが、最大の違いは、後見人は債務に対する責任を負わない点です。身のまわりのサポートなども、一般的には後見人が行うことはあまりないでしょう。
☆後見人が身元保証人になれない理由とは
前項で、身元保証人になれない人のなかに後見人も該当していましたが、これはなぜなのでしょうか。
後見人は、「本人に代わって」財産管理や身上監護(生活を維持するための契約行為など)を行う立場です。したがって「本人と同じ立場」にいる人であるため、病院や施設が要求する「身元保証人=本人以外の第三者」になることはできないのです。
もし後見人が身元保証人も兼任できると、「本人と同じ立場=本人」なので、「本人が本人の身元保証人になる(法律用語で「利益相反行為」)というよくわからないことになってしまいます。法律では後見人の利益相反行為は禁止されていることもあり、後見人は身元保証人にはなれないのです。
したがって、高齢者本人に後見人がついていたとしても、これとは別に身元保証人を用意しなければならないことがほとんどとなっています。
終活において身元保証人がすることと役割
高齢者の身元の保証が必要なとき
入院や介護施設に入所するとき
病院や施設によっては、入院時・入所時に身元保証人を用意するよう要請されることがあります。施設入所時に身元保証人として求められる役割は、主に以下のようなことです。
〇入院・入所の準備やサポート高齢者に代わって必要書類をそろえて作成したり、生活用品や衣類の準備をしたりといったサポートを行います。
〇入院・入所中のサポート、緊急時の対応普段の定期的な連絡を受けるだけでなく、入院・入所者の急な容態の変化やケガ・事故などの緊急時にも対応します。仮に遠方にいたとしても、すぐに駆けつけなければなりません。また、何かトラブルが発生した際にもその対応を引き受けます。
〇各種手続きを行う入退院の手続きや費用の支払いのみならず、入院・入居中の年金や保険などの手続きを行います。
〇入院計画やケアプランのサポート病院での治療方針や介護施設でのケアプランについて、病院・施設と調整し、内容の判断と決定を行います。
〇費用支払いの連帯保証 万が一治療費や施設利用費の滞納があった場合、連帯保証人として責任を負います。
〇退院・退所時のサポート、身柄や荷物の引き取り高齢者本人が退院・退所する際には、その身柄を引き受け、退院・退所の手続きを取って荷物の引取りも行います。
亡くなったとき
自宅以外で高齢者が亡くなった際には、遺体や遺品の引取りを行い、遺族に連絡を取ります。葬儀の手配や死後の事務手続きでは、故人の生前の希望や遺言について遺族と調整して行っていきます。遺品整理や遺産相続についても、故人の希望に沿って調整・管理していく中立的な立場が求められます。
身元保証人がいない場合に起こりうるリスク
入院や介護施設入所が難しくなる
前述したように、多くの病院や介護施設では、入院・入所時に身元保証人を立てる必要があります。身元保証人がいないと、緊急連絡時や費用の未払い、その他不測の事態に対応する人がいないリスクとなるため、入院・入所を断られてしまう恐れが出てきます。
病院や介護施設以外での死亡時の対応が難しくなる
自宅での孤独死などの場合、身元保証人が遺体の発見や引取り、遺族への連絡、葬儀の手配などが問題なく進みますが、いない場合は近隣の住民や自治体など、遺族以外の第三者にも負担をかけてしまう可能性があります。
身元保証人がいない場合はどうするか
身元保証人が不要な病院や施設を探す
前述してきたように、身元保証人をもっとも必要とする場面は、入院や施設入所する際です。しかし身元保証人がいなくても入院・入所が可能なところが見つかれば、身元保証人は不要になります。
とはいえ、現状では全国の9割以上の病院・介護施設で「身元保証人を必要としている」という調査結果もあり、不要なところを探すこと自体が困難といえます。自宅近くにうまく見つかれば問題はありませんが、それを探す手間や負担を考えると、あまり現実的とはいえないでしょう。
専門家や自治体に相談する
身元保証人を頼める人がいなくて困っている場合には、まず以下のような専門家や自治体に相談してみましょう。
〇地域包括センター(自治体)
◯弁護士・司法書士事務所
費用をかけずにまず相談という場合は、自治体の地域包括センターに相談してみるのが最善です。状況や環境によってさまざまな情報やアドバイス、もっともよい方法を提案してもらえるはずです。
また司法書士や弁護士は、老後生活の手続きや相続についての専門家であり、医療機関や介護サービス提供機関との連携なども行っているため、トータルで相談することもできるでしょう。
困ったときには、ひとりで悩んでいるよりもまずこういったところに相談してみることで、解決策が見えてくるはずです。
身元保証サービスを利用する
近年は、身近に身元保証人をお願いできる人がいない高齢者などのために、有料で身元保証人の代行サービスを行う企業が登場し、充実したサービスを提供しています。上記で解説した身元保証人本来の役割以外にも、希望に応じてさまざまなオプションにより、依頼したいサービスを選ぶことができます。身元保証人がいない場合は、このような身元保証サービスを利用することを視野に入れるのもよいでしょう。
次項からは、この身元保証サービスについて詳細を見ていきましょう。
身元保証サービスとは
身元保証サービスは、これまで述べてきたように身元保証人を必要とする場面で、その役割を代行してくれるものです。
高齢者が必要とする身元保証サービスを行う母体はさまざまで、葬儀会社などの企業、弁護士・司法書士の団体、医療・福祉関係者の団体などがありますが、明確な定義や直接的な制度の内容は、現状法律などで定められているわけではありません。
そのため、サービスの内容や費用などは事業者によって大きく異なり、また「身元保証人の役割の代行」だけでなく、その他のサポートサービスをいろいろとオプションとして組み合わせて提供されることも多くなっています。その点は利用前によく確認が必要です。
身元保証サービスの利用を考えるべき人とは
身近に身元保証人になってくれそうな人がいない、という高齢者にとって、身元保証サービスは頼りになる存在となるでしょう。たとえば、以下にあてはまるような人は、利用を検討してみるとよいでしょう。
〇独身で身寄りがいない
〇子どもがいない夫婦
〇親族がみな遠方に住んでいる
〇親族と折り合いが悪いなどで頼れない
身元保証サービスの具体的な内容例
具体的に、高齢者が必要とする身元保証サービスではどのようなことを行ってくれるのでしょうか。前述した身元保証人の役割と重なるところもありますが、総合して紹介していきます。
生活支援
普段の生活で支援を必要とする際に、その役割を担います。たとえば日常の買い物の手伝い、通院の際の付き添い、また介護認定などの行政手続きのサポートや代行なども行います。さらにほかにも、定期訪問による安否確認サービスや、緊急連絡に24時間365日対応してくれるサービスといったものも見られます。財産管理をまかせることも可能です。
生活支援は、身元保証サービスの事業者によっては、オプションとして用意していることが多い部分です。
入院・施設入居時の身元保証・身元引受
前述した通り、全国のほとんどの病院や介護施設では、入院・入所時に身元保証人を立てることを求めます。身元保証サービスのもっとも根幹の部分の役割といえるでしょう。
入院・入所時の身元保証および手続きの代行、入院・入所中の緊急連絡先としての対応、手術の立ち会い、退院・退所時の身元引受および手続き・費用支払いの代行、連帯保証などを行ってくれます。
また、医療方針や介護プランの調整もお願いできます。
死亡後のさまざまな手続き
遺体の引き取りや遺族への連絡のほか、葬儀・埋葬の実施、死亡に伴う行政手続きまで行ってくれる事業者もあり、さらには遺品整理や相続執行まで請け負ってくれる場合もあります。
このあたりはオプションになることも多いのですが、すべてのサービスをセットにしている事業者、一部サービスはオプションとして自由選択にしている事業者などさまざまなので、自分にとって必要なものをよく検討していくことが大事です。
身元保証サービスを選ぶ際のポイント
身元保証サービスを契約する際にかかる費用は、総額で100万円を超えるともいわれています。それだけ多額のお金が動く以上、事業者を選ぶ際には細心の注意が必要です。事業者を選ぶ際の流れや、注意しておくポイントを見ておきましょう。
1 まずは自分の要望をはっきりさせる
身元保証サービスを提供する事業者に「何をしてほしいのか」ということを、まず整理して書き出してみましょう。「身元保証」さえしてもらえればいいのか、そのほかにも生活支援や、死後事務もまかせたいのか。希望の内容によっては、さまざまなサービスを組み合わせたプランを提供している事業者を選ぶ必要があるので、まずは自分の希望を明確にしないことには先に進むことができません。
自分の希望、つまり「困っていること」を解決してくれるサービスを思い起こし、書き出しましょう。
2 サービス内容の確認
自分がしてほしいことを事業者に伝え、可能かどうかをひとつひとつ確認していきます。このとき、はじめからひとつの事業者に絞って相談するのではなく、いくつかの候補を挙げて比較検討することが大事です。そのほうが、より自分の希望に添ったプランを提供してくれる事業者に会える確率は高くなるからです。
プラン内容は、細かい点までしっかり確認していく必要があります。本当に自分に必要なサービスが含まれているか、逆に不要なサービスまで組み込まれていないか、不明な点は納得がいくまで質問し、はっきりさせていきましょう。
3 費用や支払い方法を確認する
費用の支払い方にもいくつかのパターンがあり、
〇一回限りの支払い
〇毎月・毎年の支払い
〇サービスひとつひとつが発生するたびに細かく支払い
のように、事業者ごとにさまざまです。
支払い方法が複雑であるほど、不要なサービスに費用を払ってしまう可能性が出てきます。また、「結局総額ではいくらかかるのか」も不透明になりやすく、事あるごとに追加料金が発生して最初に思っていたよりも高額になってしまった、ということにもつながります。
したがって、できれば一回限りの支払いで自分の望み通りのサービスがすべて受けられる事業者を選ぶことが、最善といえます。
4 契約内容の変更や解約はできるのか確認
支払い方法と同様に重要なのが、契約内容の変更や解約に関する条件です。契約当時は必要だと思っていたサービス内容が不要になったり、逆に不要だと思っていたサービスが必要になってきたりということが、年月を経ると起こりうるものです。
そのようなときにサービスは追加・削除できるのか、また解約は可能なのか、その場合は違約金が発生するのか、手続きはどう取ればいいのか、ということもしっかり確認しておきましょう。
身元保証サービスを利用するメリット
安心して身元保証をまかせられる
身近な人に身元保証人をお願いすると、先に保証人が亡くなるなど何らかの事情で保証人を続けられない事態になる恐れもあります。そうなると、また初めから身元保証人の探し直しになってしまいます。
その点、身元保証サービスであれば個人ではなく法人なので、身元保証の継続性が約束されているため、安心してまかせられるでしょう。
身元保証人との関係性に気を遣う必要がない
個人で身元保証人を依頼すると、引き受けた側はその責任の重さを負担に感じたり、依頼した側も気を遣ってしまったりすることもあるでしょう。
身元保証サービスは「契約」であり、報酬が発生する仕事として請け負ってくれるものなので、このような気遣いや心労を抱える必要はありません。身内に迷惑をかける恐れもないでしょう。
まとめ
終活においても身元保証人の存在は非常に重要である、ということがわかりましたね。また、身近で身元保証人になってもらえそうな人がいない場合には、身元保証サービスを提供している業者に頼ることで、安心して備えることができます。
身元保証サービスを利用する場合、本来の身元保証人としての役割だけではなく、オプションとしてさまざまな付帯サービスを受けられることもあります。自分に必要なもの、不要なものをしっかり考慮し、うまく活用できるようにしていきたいですね。