「終活」の一環として、エンディングノートを用意しておく人が近年増えています。自分の身のまわりに関する情報や葬儀での希望、家族への想いなどを書き記し、死後に家族が困らないように、また偲んでくれるように記しておくものです。
また、書いているうちに今までの人生を思い起こし、振り返るための役割も果たしてくれるため、若い世代にも関心が持たれ始めています。
エンディングノートとは
エンディングノートというと、終活の第一歩として欠かせないグッズのひとつという認識が強いことでしょう。もちろん、自分の死後に残された人々に対するメッセージ性のあるものなのは間違いありませんが、遺言書などとはまた違って「なんでも自由に書ける」という点において、人生を振り返るためのきっかけになるという役割も果たすものなのです
エンディングノートの目的
エンディングノートを書き記す第一の目的は、やはり自分のさまざまな情報を残しておくということです。財産のことやいろいろな手続きについて、本人しかわからないことを記しておくことで、残された家族が困るという事態を防ぐことができるでしょう。
第二に、生前の想いを綴っておくことです。家族や親しい友人に対してのメッセージは、残された人たちにとって大事な形見ともなるはずです。
遺言書や遺書との違い
自分の死後に向けて残す書き物という点で、エンディングノートはよく遺言者や遺書との違いを論じられます。
この3つのなかで、法的拘束力を持つ正式な書類は遺言書だけです。内容も、主に財産のこと、相続のことに限られます。定められた決まりに沿って作成しなければならず、メッセージというよりは事務的な書類という位置づけでしょう。
遺書は、いわば「死を目前にして残す最期の手紙」という意味合いが強いものです。遺言書とは正反対で、気持ちや想い、家族に対しての感謝の言葉などが主に記されるものといえます。遺書には法的拘束力はないので、遺言書と違って何を書いてもよいのです。
そしてエンディングノートは、やはり法的拘束力はなく、何を書いても自由です。もちろんどんな希望を書いてもかまいませんが、遺言書と違ってそれが必ず叶えられるとは限りません。エンディングノートは3つのなかでも「記録」の色合いがもっとも強く、遺書のように「目前の死」ではなく「いつか来る死」のために残しておく記録といえます。
何にどう書いても、何を書いても自由
エンディングノートという名称のものは、書店や文房具店でも見かけますし、葬儀関係の業者から無料でもらえることもあります。このようなものはあらかじめ「こういうことを書いておくといいですよ」という項目が並べられていて、それを埋めていくことである程度完成していきます。
エンディングノートを書いてみようと思ったものの、何から書き始めていいかわからない、という方はこのように市販のエンディングノートから使ってみると、筆が進みやすいかもしれません。
しかし、エンディングノートには本来、形式はありません。何を書いても、どう書いても自由です。罫線の入った普通のノート、無地の自由帳、パソコンのワープロソフト、スマホのアプリ、とにかく自分の使いやすいものを選んでかまわないのです。
何度でも書き直したり、書き足したりも自由なので、まずは市販のエンディングノートで書き始め、構想がふくらんできたらもっとさまざまな形式に発展させていってもいいですよね。
エンディングノートで生まれるメリット
家族に迷惑をかけないようにできる
生前であっても、認知症などで意思の疎通が難しくなるときが来るかもしれません。そんなとき介護や延命処置はどうするか、ということに対して自分の希望を残しておいたり、あらかじめ家族と話し合った内容を書き記したりしておけば、いざそのときが来た際にも家族がそれに沿って行動することができるでしょう。
今の気持ちや想いを伝えられる
決して事務的な内容だけでなく、メッセージや感謝の言葉をたくさん残しておくのもいいでしょう。普段はなかなか口にできないことも、手紙の形式を取れば素直に言葉になってくれるものです。
生前なかなか会うことができなかった友人や知人にも、この機会に一言残すことができます。
備忘録になる
大切な情報は、まずきちんとメモや書類として残しておくのが基本ですが、歳を重ねると「それをどこに置いたか」ということ自体も忘れがちになります。それらの大事な情報を1か所にまとめておくとしたらどこがいいか。その役割もエンディングノートが果たしてくれるでしょう。
人生の最期まで自分と向き合っていける
記録を残していくうちに、現在の自分と向き合い、死までの人生をどう有意義に過ごしていくかということも整理がついていくものです。それによって、死というものに対して前向きな気持ちを抱くことにもつながるのではないでしょうか。
エンディングノートに書いておきたい項目
エンディングノートには何を書いても自由であり、これは絶対外せない!という項目はそもそもありません。
とはいえ、エンディングノートの目的のひとつである「自分の死後家族が困らないように」という条件を満たすためにも、ある程度は「こういうことを書いておけばいいのか」と知っておくのもよいでしょう。まず何を書いていいのかわからない…という方にも、参考になるはずです。
自分の基本情報
もっとも事務的な内容である「自分の基本情報」を、まずはまとめてみてはいかがでしょうか。こんなこと家族なら知っているだろう…というものでも、一覧にしておくことによって、自分の死後に家族が住民票の抹消届を提出したり、年金受給停止手続きなどを行ったりする際に、スムーズに進められます。
・生年月日・血液型・本籍地
・家族構成・家系図
・学歴・職歴・資格
・マイナンバー・運転免許証番号・健康保険証番号
・自分の性格・自分史・趣味・特技
特に最後の「自分の性格・自分史」などは、自分独自の観点で自分という人間を語れるため、家族にとっても故人を偲ぶ際のよすがとなるでしょう。
財産・資産について
これらも事務的な情報ながら、下手に外部に漏れることは避けたい事項です。記載するのであれば、エンディングノートの扱いには十分気をつけるようにしましょう。
・介護保険証や健康保険証の置き場所
・通帳や印鑑などの置き場所
・預貯金の情報(銀行名・支店名・口座番号・暗証番号)
・不動産・有価証券・骨とう品など価値のあるものについての情報
・クレジットカードの情報・解約方法
・年金証書の置き場所
生命保険について
・保険名称
・保険会社
・証券番号
・契約者名
・保険金の受取人
・保険証券などの保管場所
ローンについて
万が一完済できていない借入がある場合は、自分の死後家族が残債を支払っていくことになります。トラブルにならないよう、情報をまとめておいたうえで、あらかじめ家族に口頭でもきちんと伝えておきましょう。
医療・介護について
・介護方針の希望
・介護費用の出どころ捻出方法
・アレルギーや持病・常備薬の情報
・かかりつけの病院名や電話番号
・延命措置を希望するのか
葬儀・納骨について
・葬儀のスタイル(家族葬・密葬など)
・葬儀の際に知らせてほしい人(名前や連絡先も)
・納骨の方法・場所
・お墓について
・遺影に使う写真
遺言書について
遺言書を作成してあるのであれば、それについても伝わるようにしておきましょう。特に自筆証書遺言は、在り処がわからなくて家族が困るという事例もあります。
・遺言書の有無
・種類(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)
・保管場所
身のまわりのこと
SNSやサブスクなどのアカウントは、自分の死後は解約してもらうのが最善です。アカウントやパスワードなどの情報をしっかり残しておきましょう。
ペットはどうするか
ペットを飼っている場合は、ペットの基本情報や性格、誰に世話を引き継いでお願いするのかということも書き記しておきましょう。
・ペットの名前
・年齢
・生年月日
・好きな食べ物、おもちゃ
・かかりつけの動物病院
・保険加入の有無
・性格
家族・友人へのメッセージ
家族や親しかった友人・知人に感謝のメッセージを記しておくといいでしょう。形見分けを考えているのであれば、誰に何をということまで書いておきます。
疎遠になってしまっていた知人に対してのメッセージも残すのであれば、連絡先も併せて載せておきましょう。
エンディングノートを作成する際の注意ポイント
保管は厳重に
エンディングノートは、1冊まるごと個人情報で構成されているといっても過言ではありません。資産のことから医療のことまで、ごく近しい家族にしか知られたくないことも多々記載されていくものです。
そうすると怖いのが、エンディングノートの保管場所です。誰にでも目がつくところに置いておくと盗難の恐れがあり、かといってあまりにもわかりにくいところに保管すると、今度は家族に見つけてもらえないという恐れが出てきます。
家族にすぐに知ってほしい情報が書かれたノート、最重要機密事項ばかりを載せたノート、というふうに内容によってノートを分けるなど、保管方法についてはまず家族としっかり相談して決めていくとよいでしょう。
書けるところ、書きたいところから書き始める
エンディングノートは、書き方によっては終わりがありません。だから「今」書きたいことを書いてみましょう。今はまだ書く時期ではない、と思う項目もきっと出てくるからです。
何度でも書き直し、書き足しができるということは大きな強みです。極端な話、殴り書きしたいときはそれでもいいのではないでしょうか?その時点の気持ちのありようがよく出ている、という意味では、おもしろいものができあがるかもしれません。
何はともあれ、「気楽に、気軽に」が一番です。「今」書けないところはどんどん飛ばして進んでいきましょう。途中で挫折して二度と続きを書けない、という状態になってしまっては、本末転倒ですからね。
家族と相談しながら書いていく
エンディングノートは自分のものでありながら、自分「だけ」のものではありません。最終的には家族の元に残されるものです。
書きたいこと、自分の希望をどんどん書き進めるのはいいとしても、それを読む人にとってまったく意味を成さない内容ばかりだとしたら切ないですよね。
残しておいてほしい情報、希望を聞いておきたい事項、そういったものを家族の口から聞いておくのも大事です。ひとりよがりで作成するのではなく、家族みんなで作り上げたエンディングノートにしたいものですね。
まとめ
自分の人生、そしていずれ訪れる「死」に対して、思うことや整理しておきたいことがある。でもまず何から始めていいかわからない。そんなときには、まずエンディングノートを用意して、ページを開いてみてはいかがでしょう。今まさに書きたいことが、自然と言葉を紡ぎ始めるはずです。
エンディングノートは堅苦しい様式や法的拘束力がない分、なんでも自由に書いて残しておけます。最期まで自分らしく生きたという証にもなる、人生の記録ともいえるものなのではないでしょうか。